弓道における「礼記射義」の本体について

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戦後、日本の弓道界が正面に掲げた「礼記射義」(らいきしゃぎ)の内容は、そのまま見れば「礼記」第46編「射義」からのただの抜粋である。

「これは大事な部分を抜き出しているのだ」という意見をよく耳にするが、それでは「射義」の他の部分はなにかしら劣るという意味にも捉えられかねない。また、抄出である以上、象徴として掲げるには中途半端である。

そもそもどうしてこの部分が抜粋されているのだろうか。その答えとなるのが、江戸時代、日本の弓道に多大な影響をあたえた中国の書物の存在だ。明代の高穎(こうえい)という人による以下の書である。


武経射学正宗/ぶきょうしゃがくせいそう ※以下「射学正宗」と略す
武経射学正宗指迷集/ぶきょうしゃがくせいそうしめいしゅう ※以下「指迷集」と略す


高穎は射学入門として「射学正宗」(上:捷径門・中:弁惑門・下:択物門)を書き、続いてその指標として「指迷集」(序・巻一・巻二・巻三・巻四・巻五)を書いた。これらは1637年に中国で刊行されたが、現在の中国国内にはその痕跡さえ残っていない。

日本では1780年に「射学正宗」が全2冊で刊行され、1785年に「指迷集」が全2冊で刊行された。以下はその日本最初の「指迷集」である。


「武經射學正宗指迷集」一冊目(序・巻一・巻二)
「武經射學正宗指迷集」二冊目(巻三・巻四・巻五)


「礼記射義」の内容は、この水端「巻一」の第一条と第二条が基になっており、「礼記射義」はまさにこの書への入口として存在している。つまり「射法訓」の本体として「四巻の書」があるように、「指迷集」に寄り添い掲げられたのが、「礼記射義」なのである。



「指迷集」巻一/第一条 ※以下、かんたん訳

孔子が矍相の地の畑で射る。見物人はとても多かった。その時孔子は孝弟忠信の道を説き、そして身を修めて学を好む筋道を説いた。また、別の日にはこう説いた。この射の筋道をもって戦をすれば敵なく、これを民にもてばよく治められると。

射はまさに一技である。孔子の述べた「孝弟忠信の身を修め、学を好む道をもつことでことごとく整う」とは一体どういうことだろう。射の道は外見はかんたんであっても、内側は細かに形動き神注ぐ。勇敢で鋭い技をもち、やわらかで、和やかで、落ち着いている、これが「孝弟忠信の道」なのではないか。二手に分かれて対峙したとしても、己に勝つ者を恨まず、我が身をかえりみて治め正そうとする、これを大事に思うことを求める。これを「身を修めて学を好む道」というのである。これを争いに用いて、その剛柔を並べ行なうのが仁の兵である。これに敵うものはない。これを民にもち、おだやかで正しいこと明らかであるのが礼儀の教えである。これが孔子の意とすることなのである。今、射の巧みな者がこの和らぎ睦まじい道を心にもてば、それが孝弟の行いである。この沈毅の道をもってその言葉を行なえば、それが忠信の友である。身に反する道を外れ、過ちを改めるならば、それが身を修めるのを好む士である。礼儀の教えを進め、兵を治め、民に臨んだならば、遠近すべてが悦びなつき、硬いものはほどける。国家がこのような者を得ることがはたして無益だろうか。



「指迷集」巻一/第二条 ※以下、かんたん訳

「礼記」にこうある。「射は進退めぐる全てにおいて礼にあたり、内は志正しく、外は体直くした結果、弓矢をはこぶことが審固になる。弓矢をはこぶこと審固であって、中ることを得る。これによる徳行を観るべきである」

射とは的に中てることである。しかし「進退めぐる全てにおいて礼にあたる」者の射は、心がそのまま技となる。射は並んで階をのぼり、階をくだり、左右めぐる全てにおいて一礼し、杯の礼が設けてあるわけであるから、その体裁をあがめ、神としてのその志を定めることが射というべきだろう。よって必ず「射は進退めぐる全てにおいて礼にあたる」でなければならないのである。

射は必ず「内志正しくした後に、弓矢をはこぶこと」でなければならない。また「外体直くした結果、弓矢をはこぶこと」が大事である。この二つの射中の妙法は、いつの世も変わることはない。それにもかかわらず、現代の者は努めて心の向かうところ正しくしようとはしているが、体直くして弓矢をはこぶ者はとても少ない。なぜならば、このことは書や文において未だに解説がないからであり、それゆえに、のちの世がこれを知ることもなかったのである。もちろん、古来の弓の名人がこれを人に示すものも残っていない。

結果「体直く」に対しては、まっすぐ立つことをいう者や、あるいは左のヒジから先を伸ばすことをいう者がある。これらはみな「体直く」の一つではあるが、その本質ではない。まっすぐ立つことは、ただ体の外形がまっすぐであるだけである。これでは弓矢をはこぶことにおいてなんの益もない。これが果たして「堅固」であろうか。左のヒジから先を伸ばすことを「直」とするものは、まさにそれが満ちる頃にはヒジの力尽き、必然としてふるえる。これでは「弓矢をはこぶこと固し」にはならない。

そもそも直というのは身を直くすることと、ヒジを捻ることにある。直の根本は左肩にあり、左肩を直にせず、悪戯に左ヒジを直にするのでは、根本なき直である。弓を引いて満ちる頃、左肩がそのまま上がってしまっては骨節に合わず、直にはならない。こういった次第であるので、肩を直する法はのちに記す「弓工の妻」の章と、入門「射学正宗」捷径門・弁惑門の郊射の章に詳しく書いた。

弓を引くことはこのようなものであるが、左右の肩とヒジの力を合わせ凝結して一片となり、平直であること平衡である。これが「外体直なり」なのである。体直にして弓を引く者は、矢尻が握りの中ほどに来たとき、左肩は下から上に達して左拳に送る、右ヒジは水流れ落ちるようにして、おもむろに矢は発す。狙いをつけるに高くも低くも自由である。まさに「弓矢をはこぶこと審固」なのである。これにより「中ることを得る」のである。養いたくわえるその様な者は、必ず心をつくして学を好み、礼儀を楽しみ、和平、恭慶、心の向かうところ正しくする。ゆえに「これもって徳行を見るべし」という。このことは雑録四の巻の或門第八章と併せて読まれたい。これにより体直の全法を得るだろう。





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来月は護国神社で、再来月は明治神宮で神事の矢を射る。
一方は十五間よりずっと近く、一方は十五間よりずっと遠い。
距離と矢根の異なる実際としてあらためて流派弓事はありがたいと思う。














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# by otherpost | 2016-09-25 23:37 | 四巻の書 | Comments(0)

ガロ展と唐貴展

小樽文学館
「編集者・長井勝一没後20年 『ガロ』と北海道のマンガ家たち展」Twitter

会期:2016年9月3日(土)~10月23日(日)

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 ガロ通巻ほか貴重な白土三平表紙本を展示します


倉敷市立美術館
「没後30年・岡本唐貴」
松川事件元被告描いた水彩画 洋画家・岡本唐貴作、確実に 倉敷市立美術館が調査

会期:2016年9月10日(土)~10月16日(日)、10月29日(土)~12月18日(日)



  


  

  

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# by otherpost | 2016-08-22 23:49 | 白土作品 | Comments(0)

"Lotus Flower" gentle voices from tibet

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# by otherpost | 2014-05-06 04:01 | その他 | Comments(0)

『四巻の書-弓道の原点』 (2014年4月8日発売/1500円)

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※「月刊弓道」2014年5月号 掲載

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※「月刊武道」2014年5月号 掲載

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※書影 朔日さんのツイートより拝借


アマゾン楽天などネットの主要なところは現在売りきれ状態になっています。
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# by otherpost | 2014-05-05 23:00 | 四巻の書 | Comments(0)

「日置流射形本書之序に見えたる円覚文」 序文  本多利実 (本多流流祖)

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日置流が的前の開祖であることは、弓を練る者皆知らぬもの無いのである。

中古射を学ぶものは武士はもちろんのこと、その学者であると神職たると僧侶たるとに論なく皆その流を汲まぬ者はないのである。

とりわけ武人の中には禅学などに志す者が多かったために、禅宗との交際も多く自然高僧の感化を受くることも少なくなかったかのように思わる。

ことに鎌倉足利時代においては、学問といえばたいてい僧侶の専有物のように考えられたる世の中であったのである。

少しく高尚なる真理はこれら僧侶の説明をまたなければならぬのである。

されば日置弾正も弓道の真理を究めんがためには仏教を修めねばならぬことを知りて、中年にして真言宗に帰依し高野山の僧として仏教の力を借りてきて弓道の真理を説明しようと試みたのである。

けだしこれは日置が大に成功した原因の一つでもあろうと思わる。

左様なわけであるからその本書の中にも仏教の言葉がたくさん出て、その数ある仏語の中には余程むつかしいものもあるのである。

さればこの本書の註解を加うる者も一通りの学者では到底なしえなかったように思わる。

これがすなわち吉田が日置の直伝と称しながらその真理はかえってその傍系の竹林派によりて闡明せられた一つの証據である。

竹林派祖師竹林坊如成は同じく真言宗の僧でありながら日置の残せる弓道を遺憾なく研究練磨してますます流租の名を高らしめたのである。

さればその後弓道の真理を討究するものは多く竹林派より出でたのである。

ゆえに今日に至りて日置流というも竹林派というも更にその区別を見ないようになったのである。


◆ 本文(一)
◆ 本文(二)
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# by otherpost | 2014-05-01 14:42 | 四巻の書 | Comments(0)

弓道 四巻の書 形態

巻子(江戸時代)

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和装本(関口本・山東本)

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洋装本(山東、富田、魚住各本)

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# by otherpost | 2014-04-12 19:42 | 四巻の書 | Comments(0)

パコデルシア(1947年12月21日-2014年2月26日)

白土三平先生の敬愛するパコが亡くなりました。偉大なミュージシャンでした。


数年前に彼の出演する「フラメンコ・フラメンコ」という映画を渋谷に観に行きました。
その時の厚いパンフレットを今ながめています。まさに多くの人にとって唯一無二の「神様」でした。


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# by otherpost | 2014-02-26 21:34 | その他 | Comments(0)

掘らしちゃなんねえ

ゴンベがたねまく カラスがほじくる

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白土三平「カムイ伝」連載第19回より ※「月刊漫画ガロ」1966年6月号。全15巻型単行本第5巻所収。


アニメ「ごん兵衛とからす」 (1978年) ※まんが日本昔ばなし。埼玉県の民話が原作。Dailymotionサイト。



民話 「種まき権兵衛」 ※三重県のサイトより。

朗読 「種まき権兵衛」 前田麻衣子 ※中京テレビ朗読シアター。YouTube。

観光地 「種まき権兵衛の里」 ※権兵衛をたたえ、1994年に開園。



譜面 「権兵衛が」  ※1915年発行の「近世俚謡歌曲集」より。国立国会図書館のデジタル化資料。

音 「権兵衛が」 ※上の譜面のメロディを聴くことができる。d-scoreサイト。

歌 「権兵衛が種まく」 藤原義江  ※1928年の歌が試聴できる。CD「我等のテナー藤原義江全集」のサイト。

踊り 「旧権兵衛踊り」 権­兵衛保存会 ※2013年。毎年春分の日に開催「種まき権兵衛祭り」より。YouTube。

新作 「新権兵衛踊り」 権­兵衛保存会 ※2013年。毎年春分の日に開催「種まき権兵衛祭り」より。YouTube。


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# by otherpost | 2014-01-23 06:00 | 白土作品 | Comments(1)

白土三平作品のヒロインたちはなぜ最後まであきらめないのか

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忍者武芸帳
一人を不意に襲われ抵抗するが、流産出血で逃れられなくとも最後まで走る

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※初出:貸本「忍者武芸帳」第12巻(1961年8月発行)


「強さ」は、おのれが今信じるところの態度である



私信:「忍者武芸帳」の英語訳出版、実現の成功を心よりお祈りしています。
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# by otherpost | 2013-11-20 04:10 | 白土作品 | Comments(3)

ルーリード(1942年3月2日-2013年10月27日)

Sunday Morning



Heroin



Walk On The Wild Side



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Paint It Black Rolling Stones



Jajouka (Your Eyes Are Like a Cup of Tea) Brian Jones


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# by otherpost | 2013-10-28 17:28 | その他 | Comments(4)