竹の階段

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シートン全集

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内山賢次(1889年-1972年)所有のシートン第一作品集「私の知る野生動物」(1898年)が狼の研究で名高い平岩米吉の目にとまる。平岩の勧めで内山は1935年、その邦訳を平岩主催の「動物文学」誌上に一年余りにわたり発表、シートン文学の日本初出となる。それが好評をはくし内山はシートン作品の収集を始める。

内山は1937年6月から1938年12月にかけて単行本「動物記」全6巻を白揚社から発行。人気を受け、増補改訂し1939年11月から1940年4月にかけて全4巻で再発行(1944年2月にその第5巻を追加で発行する)。この種のものとしては前例のないほどの部数が発行された。そして1941年に「シートン自叙伝」(白揚社)と「動物手帖」(三笠書房)、1942年に「りす物語」(フタバ書院成光館)を発行する。この辺の初期出版経緯については以前の投稿「動物記」にも書いた。

じつは「シートン動物記」という名前には不幸がある。「動物記」という単行本のタイトルは、その出版元である白揚社を経営する中村徳二郎が内山の反対を押し切り名付けたものだ。シートンには動物の創作物語だけでなく、ヒューマン小説や思想に関しても素晴らしい著作がある。それを知る内山は「動物記」という括りでの刊行を嫌っていた。しかし出版社側の意向をのまないわけにはいかなかった。内山の言うその「制肘」(横から自由な行動を妨げること)は内容にまでおよび、「ただ面白い読み物」として書きくずした訳出に心が痛んだという。内山は1951年に「芸術博物学者の面影を傷つけることおびただしかった」と回想をしている。

現在、このファーブルの「昆虫記」に合わせて付けられた「動物記」は、内山の予想通りシートン著作のイメージを固定化し、シートンの「動物の創作物語」以外の出版を妨げる結果になっているように思う。「動物の創作物語」はシートン一連の著作の一部に過ぎず、経験をそのまま書いた動物譚や、詩歌、自然の中の人間を書いた作品群、ボーイスカウト創成とのかかわりに関しては、ほとんどの日本人が興味を持つことはない。

戦後の1951年6月から1953年12月にかけて、「シートン全集」全19巻が評論社から刊行された。内山は生前のシートンやその夫人に直接資料的援助を受け、今までに訳出したものは内容を精査し、さらに新たに訳出したものを多数加えている。この身を削るような作業は内山の体重を30キログラム台まで落としたようだ。原著の雰囲気を損ねないよう細心の注意をはらい、当時のものとしては採算を考えているとは思えないほど図版・写真が多く収録されている。特に第17巻は全ページ二色で製本されており、美しい初刷原本の再現に訳者出版社をあげて努力したようだ。シートンの著作の内、数編この全集に収まっていないものがあるが、もちろん主要なものは全て含まれている。

以下に「シートン全集」全巻の収録内容を書く。


第1巻「動物記1/私の知る野生動物」(1951年6月30日発行/評論社/300円/全369頁)

1- ロボー -カランポーの王様- (旧第一巻-2/第一冊-1) Lobo
2- 銀の星 -ある鴉の話- (旧第一巻-1/第一冊-2) Silverspot
3- ぎざ耳坊主 -綿尾兎の話- (旧第一巻-3/第一冊-3) Raggylug
4- ビンゴ -私の犬の話- (旧第一巻-4/第一冊-4) Bingo
5- スプリングフィールドの狐 (旧第一巻-5/第一冊-5) The Springfield Fox
6- 跑くのマスタング (旧第一巻-6/第一冊-6) The Pacing Mustang
7- ワリー -孤犬の話- (旧第一巻-7/第一冊-7) Wully
8- 赤襟兄い -ドン谷山鶉(うずら)の話- (旧第一巻-8/第一冊-8) Redruff

第1巻はシートンを有名にした第一作品集「Wild Animals I Have Known」(1898年)の邦訳。


第2巻「動物記2/狩られるものの生活」(1951年7月30日発行/評論社/300円/全341頁)

1- 峰の大将 -クートネー山の牡羊- (旧第二巻-1/第二冊-1) Krag, the Kootenay Ram
2- 街の吟遊詩人 -牡雀の冒険物語- (旧第二巻-2/第二冊-2) A Street Troubadour
3- ジョンニー熊 -イェローストーン公園の子熊- (旧第二巻-3/第二冊-3) Johnny Bear
4- 母さん小鴨と陸の旅路 (旧第二巻-4/第二冊-4) The Mother Teal and the Overland Route
5- ちゃん公 -子犬の成長- (旧第二巻-5/第二冊-5) Chink : The Development of a Pup
6- カンガルー鼠 (旧第二巻-6/第二冊-6) The Kangaroo Rat
7- ティトオ -賢くなったコヨーテの話- (旧第二巻-7/第二冊-7) Tito
8- なぜ山雀は年に一度気が狂うか (旧第二巻-8/第二冊-8) Why the Chickadee Goes Crazy

第2巻は第二作品集「Lives of the Hunted」(1901年)の邦訳。


第3巻「動物記3/サンド・ヒル牡鹿の足跡」(1951年8月30日発行/評論社/300円/全335頁)

1- サンド・ヒル牡鹿の足跡 (旧第一巻-9/第二冊-9) The Trail of The Sandhill Stag
2- 熊王物語 -タラク山の大熊- (旧第四巻-1/第二冊-10) Monarch
3- 銀狐物語 -ゴールダー・タウンのドミノ狐- (旧第四巻-2/第四冊-1) Domino

第3巻は「The Trail of The Sand-hill Stag」(1899年)、「Monarch the Big Bear of Tallac」(1904年)、「The Biography of a Silver Fox」(1909年)計3冊の邦訳。


第4巻「動物記4/動物英雄伝」(1951年9月30日発行/評論社/300円/全379頁)

1- 裏街にゃん子 (旧第五巻-5/第三冊-1) The Slum Cat
2- アルノウ -ある巣帰り鳩の記録- (旧第三巻-2/第三冊-3) Arnaux
3- バッドランドのビリー -勝利を得た狼- (旧第三巻-3/第三冊-4) Badlands Billy
4- 少年と大山猫 (旧第三巻-4/第三冊-5) The Boy and the Lynx
5- ちび助軍馬 (旧第三巻-5/第三冊-6) Little Warhorse
6- ぱく坊 -あるブル・テリヤーの話- (旧第五巻-6/第三冊-2) Snap
7- ウィニペグ狼 (旧第三巻-6/第三冊-7) The Winnipeg Wolf
8- 白馴鹿の伝説 The White Reindeer

第4巻は「Animal Heroes」(1905年)の邦訳。「少年と大山猫」は白土作品「フェニボンクの山猫」の原作。


第5巻「動物記5/灰色熊の伝記」(1951年11月10日発行/評論社/330円/全281頁)

1- 灰色熊の伝記 (旧第三巻-1/第一冊-9) Wahb
2- 墨栗 -無法者の馬の話- (旧第五巻-1/第三冊-8) Coaly-Bay, the Outlaw Horse
3- あぶくん坊 -剃刀背野豚の生涯と冒険- (旧第五巻-2/第三冊-9) Foam-A Razor-Backed Hog
4- ウェー・アッチャ -キルダー小川の浣熊- (旧第五巻-3/第三冊-10) Way-Atcha, the Coon-Raccoon
5- ビリー -立派になった犬の話- (旧第五巻-4/第三冊-11) Billy, the Dog That Made Good

第5巻は「The Biography of A Grizzly(灰色熊の伝記)」(1900年)、「Wild Animal Ways(野生動物の生き方)」(1916年)計2冊の邦訳。「灰色熊の伝記」はシートンの創作した物語だが、グレーブル河のパレット牧場でのシートン自身の経験と、その牧場主から集めたワーブの来歴をまとめたものが基になっている。1898年からアメリカの「センチュリーマガジン」に連載され、単行本は1900年に同社から出版されたが、この訳出は1930年のグロセットダンラップ社からの普及版第20版をもとにしている。後半の4作品分である「野生動物の生き方」も普及版からの訳出だが、内容が原本リンクのダブルデーページ社のもの(全7作品収録)とは異なる。ホートンミフィン社の普及版にはなぜか後半の3作品(蝙蝠・雁・猿)が収録されておらず、そのことを内山はとても残念がっている。また、ホートンミフィン社の普及版には写真図版も載っていないため、しかたなく内山は「Lives of Game Animals(狩猟動物の生活)」全4巻(1925-28年)から収録作品に該当する図版をとり、この訳本の巻頭に使用している。


第6巻「動物記6/安住の動物」(1951年11月30日発行/評論社/330円/全319頁)

第6巻は「Wild Animals at Home」(1913年)の邦訳。三笠書房刊「動物手帖」(1941年)の改訂版。第5巻までの創作とは違い、シートン自身のフィールドノートからなる。


第7巻「動物記7/北氷草原紀行」(1951年12月31日発行/評論社/330円/全369頁)

第7巻は「The Arctic Prairies」(1911年)の邦訳。白揚社刊「動物記」第五冊(1944年)の改訂版。これはシートン自身の紀行文。


第8巻「動物記8/歴史上の大動物」(1951年12月31日発行/評論社/330円/全419頁)
1- ウォスカと勇敢な子狼 -白色の母狼- (旧第六巻-1/第四冊-2) Shishoka (Wosca and her valiant cub)
2- チリンガムの牡牛 (旧第六巻-2/第四冊-3) The Chillingham Bull
3- マリエっ子と狼 (旧第六巻-3/第四冊-4) Little Marie and the Wolves
4- 自動車踏段の狼 (旧第六巻-4/第四冊-5) The Wolf on the Running-board
5- 飼いならし獣の野性的習慣 (旧第六巻-13/第四冊-14)
6- パドレイクと最後のアイルランド狼 (旧第六巻-9/第四冊-10) Padriatic and the Last of the Irish Wolves
7- リーンコーン -夜の叫び- (旧第六巻-7/第四冊-8) Rincon, or The Call in the Night
8- 狼と原始的法律 (旧第六巻-6/第四冊-7) The Wolf and the Primal Law
9- 「にんじん」物語 (旧第六巻-5/第四冊-6) The Story of Carrots
10- チッケエリー -赤栗鼠の生活のたった一つの冒険- The Adventures of Red Squirrel
11- 女熊 The Female Bears
12- 愛するものたちと輝くもの -歌う森男の語り草- The Lovers and the Shining One
13- 鼠とがらがら蛇 -動物の個性の研究- The Rat and the Rattlers
14- ディポオ -砂漠の妖精- Dipo: Sprite of the Desert
15- ハンクとジェフ (旧第六巻-8/第四冊-9) Hank and Jeff
16- 鬼畜生 -ジェヴォーダンの鬼狼- (旧第六巻-10/第四冊-11) The Wolf Monster of Gevaudan
17- 株つ尾大王 -フランスの狼王- (旧第六巻-11/第四冊-12) Courtaud, The King Wolf of France
18- 豹の恋人 (旧第六巻-12/第四冊-13) The Leopard Lover
19- だれが英雄であったか?

第8巻は「Great Historic Animals (Mainly About Wolves)」(1937年)の邦訳。実際にあった狼の話を中心に、経験からの詳しい考察なども収められている。「ウォスカと勇敢な子狼」は白土作品「ウォスカと赤頭の子狼」の原作。


第9巻「二人の小さな野蛮人」上巻(1952年7月25日発行/評論社/330円/全323頁)
第10巻「二人の小さな野蛮人」下巻(1952年8月25日発行/評論社/330円/全423頁)

第9-10巻は小説「Two little savages」(1903年)の邦訳。


第11巻「森のロルフ」上巻(1952年5月25日発行/評論社/330円/全321頁)
第12巻「森のロルフ」下巻(1952年6月25日発行/評論社/330円/全333頁)

第11-12巻は小説「Rolf in the Woods」(1911年)の邦訳。


第13巻「シダー・マウンテンの説教師」上巻(1952年11月25日発行/評論社/330円/全319頁)
第14巻「シダー・マウンテンの説教師」下巻(1952年12月25日発行/評論社/330円/全291頁)

第13-14巻は小説「The Preacher of Cedar Mountain」(1917年)の邦訳。


第15巻「自叙伝」上巻(1953年1月30日発行/評論社/330円/全385頁)
第16巻「自叙伝」下巻(1953年3月30日発行/評論社/330円/全347頁)

第15-16巻は自伝「The Autobiography of Ernest Thompson Seton」(1940年)の邦訳。
白揚社刊「シートン自叙伝」(1941年)の改訂版。


第17巻「森の神話と寓話」(1953年6月10日発行/評論社/380円/全419頁)

1- 森の神話と寓話:イソップ的な寓話や詩集「Woodmyth and Fable」(1905年)の邦訳
2- 森の物語:子どものための妖精話集「Woodland Tales」(1921年)の邦訳


第18巻「キャンプ・ファイヤ物語」(1953年7月30日発行/評論社/330円/全391頁)

1- キャンプ・ファイヤ物語:口演録「Trail and Camp-fire Stories」(1940年)の邦訳
2- 赤人の福音書:インディアンに関する書「The Gospel of Redman」(1936年)の邦訳
3- 十誡の博物学:講演録「The Natural History of The Ten Commandments」(1907年)の邦訳


別巻「動物記9/英雄犬サンタナ」(1953年12月25日発行/評論社/330円/全325頁)
1- サンタナ -フランスの英雄犬-:絶筆「Santana, The Hero Dog of France」(1945年)の邦訳
2- 旗尾リス物語:「Banner Tail, The Story of a Graysquirrell」(1922年)の邦訳
3- 北極狐の伝記 -雪の子カタグ-:「The Biography of An Arctic Fox」(1937年)の邦訳

収録の「旗尾リス物語」はフタバ書院成光館刊「りす物語」(1942年)の改訂版。



※パブリックドメイン化している原本をここから探しリンクを貼ったが、見つからないものもあった。「眠れる森の美女」「不思議の国のアリス」ポターなど挿絵の綺麗なものを探してみるのも楽しい。
by otherpost | 2011-02-06 12:31 | 資料 | Comments(0)